〘447㌻〙
第1章
1 神むかしは預言者等により、多くに分󠄃ち、多くの方法をもて先祖たちに語り給ひしが、
2 この末の世には御子によりて、我らに語り給へり。神は曾て御子を立てて萬の物の世嗣となし、また御子によりて諸般の世界を造󠄃り給へり。
3 御子は神の榮光のかがやき、神の本質の像にして、己が權能の言をもて萬の物を保ちたまふ。また罪の潔󠄄をなして、高き處にある稜威の右に坐し給へり。
4 その受け給ひし名の御使の名に勝󠄃れるごとく、御使よりは更に勝󠄃る者となり給へり。
5 神は孰の御使に曾て斯くは言ひ給ひしぞ『なんぢは我が子なり、われ今日なんぢを生めり』と。また 『われ彼の父󠄃となり、 彼わが子とならん』と。
6 また初子を再び世に入れ給ふとき 『神の凡ての使は之を拜すべし』と言ひ給ふ。
7 また御使たちに就ては 『神は、その使たちを風となし、 その事ふる者を焔となす』と言ひ給ふ。
8 されど御子に就ては 『神よ、なんぢの御座は世々限りなく、 汝の國の杖は正しき杖なり。
9 なんぢは義を愛し、不法をにくむ。 この故に神なんぢの神は、歡喜の油を汝の友に勝󠄃りて汝にそそぎ給へり』と。
10 また 『主よ、なんぢ太初に地の基を置きたまへり、 天も御手の業なり。
11 これらは滅びん、されど汝は常に存へたまはん。 此等はみな衣のごとく舊びん。
12 而して汝これらを袍のごとく疊み給はん、此等は衣のごとく變らん。 然れど汝は變り給ふことなく 汝の齡は終󠄃らざるなり』と言ひたまふ。
447㌻
13 又󠄂いづれの御使に曾て斯くは言ひ給ひしぞ 『われ汝の仇を汝の足臺となすまでは、 我が右に坐せよ』と。〘325㌻〙
14 御使はみな事へまつる靈にして、救を嗣がんとする者のために職を執るべく遣󠄃されたる者にあらずや。
第2章
1 この故に我ら聞きし所󠄃をいよいよ篤く愼むべし、恐らくは流れ過󠄃ぐる事あらん。
2 若し御使によりて語り給ひし言すら堅くせられて、咎と不從順とみな正しき報を受けたらんには、
3 我ら斯のごとき大なる救を等閑にして爭でか遁るることを得ん。この救は初め主によりて語り給ひしものにして、聞きし者ども之を我らに確うし、
4 神また徴と不思議と、さまざまの能力ある業と、御旨のままに分󠄃ち與ふる聖󠄄靈とをもて證を加へたまへり。
5 それ神は我らの語るところの來らんとする世界を御使たちには服󠄃はせ給はざりき。
6 或篇に人、證して言ふ 『人は如何なる者なれば、 之を御心にとめ給ふか。 人の子は如何なる者なれば、 之を顧󠄃み給ふか。
7 汝これを《[*]》御使よりも少しく卑うし、 光榮と尊󠄅貴とを冠らせ、[*或は「しばしば御使よりも卑うし」と譯す。]
8 萬の物をその足の下の服󠄃はせ給へり』と。旣に萬の物を之に服󠄃はせ給ひたれば、服󠄃はぬものは一つだに殘さるる事なし。されど今もなほ我らは萬の物の之に服󠄃ひたるを見ず。
9 ただ御使よりも少しく卑くせられしイエスの、死の苦難を受くるによりて榮光と尊󠄅貴とを冠らせられ給へるを見る。これ神の恩惠によりて萬民のために死を味ひ給はんとてなり。
10 それ多くの子を光榮に導󠄃くに、その救の君を苦難によりて全󠄃うし給ふは、萬の物の歸するところ、萬の物を造󠄃りたまふ所󠄃の者に相應しき事なり。
448㌻
11 潔󠄄めたまふ者も、潔󠄄めらるる者も、皆ただ一つより出づ。この故に彼らを兄弟と稱ふるを恥とせずして言ひ給ふ、
12 『われ御名を我が兄弟たちに吿げ、 集會の中にて汝を讃め歌はん』
13 また 『われ彼に依り賴まん』又󠄂 『視よ、我と神の我に賜ひし子等とは………』と。
14 子等はともに血肉を具󠄄ふれば、主もまた同じく之を具󠄄へ給ひしなり。これは死の權力を有つもの、即ち惡魔󠄃を死によりて亡し、〘326㌻〙
15 かつ死の懼によりて生涯奴隷となりし者どもを解放ち給はんためなり。
16 實に主は御使を扶けずしてアブラハムの裔を扶けたまふ。
17 この故に、神の事につきて憐憫ある忠實なる大祭司となりて、民の罪を贖はんために、凡ての事において兄弟の如くなり給ひしは宜なり。
18 主は《[*]》自ら試みられて苦しみ給ひたれば、試みられるる者を助け得るなり。[*或は「自ら苦しみて試みられ給ひたれば」と譯す。]
第3章
1 されば共に天の召を蒙れる聖󠄄なる兄弟よ、我らが言ひあらはす信仰の使徒たり大祭司たるイエスを思ひ見よ。
2 彼の己を立て給ひし者に忠實なるは、モーセが神の全󠄃家に忠實なりしが如し。
3 家を造󠄃る者の家より勝󠄃りて尊󠄅ばるる如く、彼もモーセに勝󠄃りて大なる榮光を受くるに相應しき者とせられ給へり。
4 家は凡て之を造󠄃る者あり、萬の物を造󠄃り給ひし者は神なり。
5 モーセは後に語り傳へられんと爲ることの證をせんために、僕として神の全󠄃家に忠實なりしが、
6 キリストは子として神の家を忠實に掌どり給へり。我等もし確信と希望󠄇の誇とを終󠄃まで堅く保たば、神の家なり。
7 この故に聖󠄄靈の言ひ給ふごとく 『今日なんぢら神の聲を聞かば、
8 その怒を惹きし時のごとく、 荒野の嘗試の日のごとく、 心を頑固にする勿れ。
9 彼處にて汝らの先祖たちは我を試みて驗し、かつ四十年の間、わが業を見たり。
449㌻
10 この故に我この代の人を憤ほりて云へり、「彼らは常に心迷󠄃ひ、 わが途󠄃を知らざりき」と。
11 われ怒をもて「彼らは我が休に入るべからず」と誓へり』
12 兄弟よ、心せよ、恐らくは汝等のうち活ける神を離れんとする不信仰の惡しき心を懷く者あらん。
13 汝等のうち誰も罪の誘惑によりて頑固にならぬやう、今日と稱ふる間に日々互に相勸めよ。
14 もし始の確信を終󠄃まで堅く保たば、我らはキリストに與かる者となるなり。
15 それ 『今日なんぢら神の聲を聞かば、その怒を惹きし時のごとく、心を頑固にする勿れ』と云へ。〘327㌻〙
16 然れば聞きてなほ怒を惹きし者は誰なるか、モーセによりてエジプトを出でし凡ての人にあらずや。
17 また四十年のあひだ、神は誰に對して憤ほり給ひしか、罪を犯してその死屍を荒野に横たへし人々にあらずや。
18 又󠄂かれらは我が安息に入るべからずとは、誰に對して誓ひ給ひしか、不從順なる者にあらずや。
19 之によりて見れば、彼らの入ること能はざりしは、不信仰によりてなり。
第4章
1 然れば我ら懼るべし、その安息に入るべき約束はなほ遺󠄃れども、恐らくは汝らの中これに達󠄃せざる者あらん。
2 そは彼らのごとく我らも善き音󠄃信を傳へられたり、然れど彼らには聞きし所󠄃の言益なかりき。聞くもの之に信仰をまじへざりしに因る。
3 われら信じたる者は、かの休に入ることを得るなり。 『われ怒をもて「彼らは、 わが休に入るべからず」と誓へり』と云ひ給ひしが如し。されど世の創より御業は旣に成れるなり。
4 或篇に七日めに就きて斯く云へり『七日めに神その凡ての業を休みたまへり』と。
5 また茲に 『かれらは、 我が休に入るべからず』と云へり。
6 然れば之に入るべき者なほ在り、曩に善き音󠄃信を傳へられし者らは、不從順によりて入ることを得ざりしなれば、
450㌻
7 久しきを經てのち復、日を定めダビデによりて『今日』と言ひ給ふ。曩に記したるが如し。曰く 『今日なんぢら神の聲を聞かば、 心を頑固にする勿れ』
8 若しヨシュア旣に休を彼らに得しめしならば、神はその後、ほかの日につきて語り給はざりしならん。
9 然れば神の民の爲になほ安息は遺󠄃れり。
10 旣に神の休に入りたる者は、神のその業を休み給ひしごとく、己が業を休めり。
11 されば我等はこの休に入らんことを努むべし、是かの不從順の例にならひて誰も墮つることなからん爲なり。
12 神の言は生命あり、能力あり、兩刃󠄃の劍よりも利くして、精神と靈魂、關節󠄄と骨髓を透󠄃して之を割󠄅ち、心の念と志望󠄇とを驗すなり。
13 また造󠄃られたる物に一つとして神の前󠄃に顯れぬはなし、萬の物は我らが係れる神の目のまへに裸にて露るるなり。〘328㌻〙
14 我等には、もろもろの天を通󠄃り給ひし偉なる大祭司、神の子イエスあり。然れば我らが言ひあらはす信仰を堅く保つべし。
15 我らの大祭司は我らの弱󠄃を思ひ遣󠄃ること能はぬ者にあらず、罪を外にして凡ての事、われらと等しく試みられ給へり。
16 この故に我らは憐憫を受けんが爲、また機に合ふ助となる惠を得んがために、憚らずして惠の御座に來るべし。
第5章
1 凡そ大祭司は人の中より選󠄄ばれ、罪のために供物と犧牲とを献げんとて、人にかはりて神に事ふることを任ぜらる。
2 彼は自らも弱󠄃に纒はるるが故に、無知なるもの迷󠄃へる者を思ひ遣󠄃ることを得るなり。
451㌻
3 之によりて民のために爲すごとく、また己のためにも罪に就きて献物をなさざるべからず。
4 又󠄂この貴き位はアロンのごとく神に召さるるにあらずば、誰も自ら之を取る者なし。
5 斯の如くキリストも己を崇めて自ら大祭司となり給はず。之に向ひて 『なんぢは我が子なり、 われ今日なんぢを生めり』と語り給ひし者、これを立てたり。
6 また他の篇に 『なんぢは永遠󠄄にメルキゼデクの位に等しき祭司たり』と言ひ給へるが如し。
7 キリストは肉體にて在ししとき、大なる叫と淚とをもて、己を死より救ひ得る者に祈と願とを献げ、その恭敬によりて聽かれ給へり。
8 彼は御子なれど、受けし所󠄃の苦難によりて從順を學び、
9 かつ全󠄃うせられたれば、凡て己に順ふ者のために永遠󠄄の救の原となりて、
10 神よりメルキゼデクの位に等しき大祭司と稱へられ給へり。
11 之に就きて我ら多くの言ふべき事あれど、汝ら聞くに鈍くなりたれば釋き難し。
12 なんぢら時を經ること久しければ、敎師となるべき者なるに、今また神の言の初步を人より敎へられざるを得ず、汝らは堅き食󠄃物ならで乳󠄃を要󠄃する者となれり。
13 おほよそ乳󠄃を用ふる者は幼兒なれば、未だ義の言に熟せず、
14 堅き食󠄃物は智力を練習して善惡を辨ふる成人の用ふるものなり。
第6章
1 この故に我らはキリストの敎の初步に止まることなく、再び死にたる行爲の悔改と神に對する信仰との基、
2 また各樣のバプテスマと按手と、死人の復活と永遠󠄄の審判󠄄との敎の基を置かずして、完全󠄃に進󠄃むべし。〘329㌻〙
3 神もし許し給はば、我ら之をなさん。
4 一たび照されて天よりの賜物を味ひ、聖󠄄靈に與る者となり、
452㌻
5 神の善き言と來世の能力とを味ひて後、
6 墮落する者は、更にまた自ら神の子を十字架に釘けて肆し者とする故に、再びこれを悔改に立返󠄄らすること能はざるなり。
7 それ地しばしば其の上に降る雨を吸入れて、耕す者の益となるべき作物を生ぜば、神より祝福を受く。
8 されど茨と薊とを生ぜば、棄てられ、かつ詛に近󠄃く、その果ては焚かるるなり。
9 愛する者よ、われら斯くは語れど、汝らには更に善きこと、即ち救にかかはる事あるを深く信ず。
10 神は不義に在さねば、汝らの勤勞と、前󠄃に聖󠄄徒につかへ、今もなほ之に事へて御名のために顯したる愛とを忘れ給ふことなし。
11 我らは汝等がおのおの終󠄃まで前󠄃と同じ勵をあらはして全󠄃き望󠄇を保ち、
12 怠ることなく、信仰と耐忍󠄄とをもて約束を嗣ぐ人々に效はんことを求む。
13 それ神はアブラハムに約し給ふとき、指して誓ふべき己より大なる者なき故に、己を指して誓ひて言ひ給へり、
14 『われ必ず、なんぢを惠み惠まん、なんぢを殖し殖さん』と、
15 斯の如くアブラハムは耐忍󠄄びて約束のものを得たり。
16 おほよそ人は己より大なる者を指して誓ふ、その誓はすべての爭論を罷むる保證たり。
17 この故に神は約束を嗣ぐ者に御旨の變らぬことを充分󠄃に示さんと欲して誓を加へ給へり。
18 これ神の謊ること能はぬ二つの變らぬものによりて、己の前󠄃に置かれたる希望󠄇を捉へんとて遁れたる我らに强き奬勵を與へん爲なり。
19 この希望󠄇は我らの靈魂の錨のごとく安全󠄃にして動かず、かつ幔の內に入る。
20 イエス我等のために前󠄃驅し、永遠󠄄にメルキゼデクの位に等しき大祭司となりて、その處に入り給へり。
453㌻
第7章
1 此のメルキゼデクはサレムの王にて至高き神の祭司たりしが、王たちを破りて還󠄃るアブラハムを迎󠄃へて祝福せり。
2 アブラハムは彼に凡ての物の十分󠄃の一を分󠄃與へたり。その名を釋けば第一に義の王、次にサレムの王、すなはち平󠄃和の王なり。
3 父󠄃なく、母なく、系圖なく、齡の始なく、生命の終󠄃なく、神の子の如くにして限りなく祭司たり。
〘330㌻〙
4 先祖アブラハム分󠄃捕物のうち十分󠄃の一、最も善き物を之に與へたれば、その人の如何に尊󠄅きかを思ふべし。
5 レビの子等のうち祭司の職を受くる者は、律法によりて民、即ちアブラハムの腰より出でたる己が兄弟より、十分󠄃の一を取ることを命ぜらる。
6 されど此の血脈にあらぬ彼は、アブラハムより十分󠄃の一を取りて約束を受けし者を祝福せり。
7 それ小なる者の大なる者に祝福せらるるは論なき事なり。
8 かつ此所󠄃にては死ぬべき者十分󠄃の一を受くれども、彼處にては『活くるなり』と證せられた者、これを受く。
9 また十分󠄃の一を受くるレビすら、アブラハムに由りて十分󠄃の一を納󠄃めたりと云ふも可なり。
10 そはメルキゼデクのアブラハムを迎󠄃へし時に、レビはなほ父󠄃の腰に在りたればなり。
11 もしレビの系なる祭司によりて全󠄃うせらるる事ありしならば(民は之によりて律法を受けたり)何ぞなほ他にアロンの位に等しからぬメルキゼデクの位に等しき祭司の起󠄃る必要󠄃あらんや。
12 祭司の易る時には律法も亦必ず易るべきなり。
13 此等のことは曾て祭壇に事へたることなき他の族に屬する者をさして云へるなり。
14 それ我らの主のユダより出で給へるは明かにして、此の族につき、モーセは聊かも祭司に係ることを云はざりき。
454㌻
15 -16 又󠄂メルキゼデクのごとき他の祭司おこり、肉の誡命の法に由らず、朽ちざる生命の能力によりて立てられたれば、我が言ふ所󠄃いよいよ明かなり。
17 そは『なんぢは永遠󠄄にメルキゼデクの位に等しき祭司たり』と證せられ給へばなり。
18 前󠄃の誡命は弱󠄃く、かつ益なき故に廢せられ、
19 (律法は何をも全󠄃うせざりしなり)更に優れたる希望󠄇を置かれたり、この希望󠄇によりて我らは神に近󠄃づくなり。
20 かの人々は誓なくして祭司とせられたれども、
21 彼は誓なくしては爲られず、誓をもて祭司とせられ給へり。即ち彼に就きて 『主ちかひて悔い給はず、 「なんぢは永遠󠄄に祭司たり」』と言ひ給ひしが如し。
22 イエスは斯くも優れたる契󠄅約の保證となり給へり。
23 かの人々は死によりて永くその職に留ることを得ざる故に、祭司となりし者の數多かりき。
24 されど彼は永遠󠄄に在せば易ることなき祭司の職を保ちたまふ。
25 この故に彼は己に賴りて神にきたる者のために執成をなさんとて常に生くれば、之を全󠄃く救ふことを得給ふなり。
〘331㌻〙
26 斯のごとき大祭司こそ我らに相應しき者なれ、即ち聖󠄄にして惡なく、穢なく、罪人より遠󠄄ざかり、諸般の天よりも高くせられ給へり。
27 他の大祭司のごとく先づ己の罪のため、次に民の罪のために日々犧牲を献ぐるを要󠄃し給はず、その一たび己を献げて之を成し給ひたればなり。
28 律法は弱󠄃みある人々を立てて大祭司とすれども、律法の後なる誓の御言は、永遠󠄄に全󠄃うせられ給へる御子を大祭司となせり。
455㌻
第8章
1 今いふ所󠄃の要󠄃點は斯のごとき大祭司の我らにある事なり。彼は天にては稜威の御座の右に坐し、
2 聖󠄄所󠄃および眞の幕屋に事へたまふ。この幕屋は人の設くるものにあらず、主の設けたまふ所󠄃なり。
3 おほよそ大祭司の立てらるるは供物と犧牲とを献げん爲なり、この故に彼もまた献ぐべき物あるべきなり。
4 然るに若し地に在さば旣に律法に循ひて供物を献ぐる祭司等あるによりて祭司とはなり給はざるべし。
5 彼らの事ふるは、天にある物の型と影となり。モーセが幕屋を建てんとする時に『愼め、山にて汝が示されたる式に效ひて凡ての物を造󠄃れ』との御吿を受けしが如し。
6 されどキリストは更に勝󠄃れる約束に基きて立てられし勝󠄃れる契󠄅約の中保となりたれば、更に勝󠄃る職を受け給へり。
7 かつ初の契󠄅約もし虧くる所󠄃なくば、第二の契󠄅約を求むる事なかりしならん。
8 然るに彼らを咎めて言ひ給ふ 『主いひ給ふ「視よ、 我イスラエルの家とユダの家とに、 新しき契󠄅約を設くる日來らん。
9 この契󠄅約は我かれらの先祖の手を執りて、 エジプトの地より導󠄃き出しし時に立てし所󠄃の如きに非ず。 彼らは我が契󠄅約に止まらず、 我も彼らを顧󠄃みざりしなり」と、主いひ給ふ。
10 「然れば、かの日の後に我がイスラエルの家と立つる契󠄅約は是なり」と主いひ給ふ。 「われ我が律法を彼らの念に置き、 その心に之を記さん、 また我かれらの神となり、 彼らは我が民とならん。
11 彼等はまた各人その國人に、 その兄弟に敎へて、 なんぢ主を知れと言はざるべし。 そは小より大に至るまで、 皆われを知らん。〘332㌻〙
12 我もその不義を憐み、 この後また其の罪を思出でざるべし」』と。
13 旣に『新し』と言ひ給へば、初のものを舊しとし給へるなり、舊びて衰ふるものは、消󠄃失せんとするなり。
456㌻
第9章
1 初の契󠄅約には禮拜の定と世に屬する聖󠄄所󠄃とありき。
2 設けられたる幕屋あり、前󠄃なるを聖󠄄所󠄃と稱へ、その中に燈臺と案と供のパンとあり。
3 また第二の幕の後に至聖󠄄所󠄃と稱ふる幕屋あり。
4 その中に金の香壇と金にて徧く覆ひたる契󠄅約の櫃とあり、この中にマナを納󠄃れたる金の壺と芽したるアロンの杖と契󠄅約の石碑とあり、
5 櫃の上に榮光のケルビムありて贖罪所󠄃を覆ふ。これらの物に就きては、今一々言ふこと能はず、
6 此等のもの斯く備りたれば、祭司たちは常に前󠄃なる幕屋に入りて禮拜をおこなふ。
7 されど奧なる幕屋には大祭司のみ年に一度おのれと民との過󠄃失のために献ぐる血を携へて入るなり。
8 之によりて聖󠄄靈は前󠄃なる幕屋のなほ存するあひだ、至聖󠄄所󠄃に入る道󠄃の未だ顯れざるを示し給ふ。
9 この幕屋はその時のために設けられたる比喩なり、之に循ひて献げたる供物と犧牲とは、禮拜をなす者の良心を全󠄃うすること能はざりき。
10 此等はただ食󠄃物・飮物さまざまの濯󠄄事などに係り、肉に屬する定にして、改革の時まで負󠄅せられたるのみ。
11 然れどキリストは來らんとする善き事の大祭司として來り、手にて造󠄃らぬ此の世に屬せぬ更に大なる全󠄃き幕屋を經て、
12 山羊と犢との血を用ひず、己が血をもて只一たび至聖󠄄所󠄃に入りて、永遠󠄄の贖罪を終󠄃へたまへり。
13 もし山羊および牡牛の血、牝牛の灰󠄃などを穢れし者にそそぎて其の肉體を潔󠄄むることを得ば、
14 まして永遠󠄄の御靈により瑕なくして己を神に献げ給ひしキリストの血は、我らの良心を死にたる行爲より潔󠄄めて活ける神に事へしめざらんや。
457㌻
15 この故に彼は新しき契󠄅約の中保なり。これ初の契󠄅約の下に犯したる咎を贖ふべき死あるによりて、召されたる者に約束の永遠󠄄の嗣業を受けさせん爲なり。
16 それ《[*]》遺󠄃言は必ず《[△]》遺󠄃言者の死を要󠄃す。[*原語「契󠄅約」との義もあり。△原語「契󠄅約者」との義もあり。]
17 遺󠄃言は《[△]》遺󠄃言者死にてのち始めて效あり、《[△]》遺󠄃言者の生くる間は效なきなり。[*原語「契󠄅約」との義もあり。△原語「契󠄅約者」との義もあり。]
18 この故に初の契󠄅約も血なくして立てしにあらず。
19 モーセ律法に循ひて諸般の誡命をすべての民に吿げてのち、犢と山羊との血、また水と緋色の毛とヒソプとをとりて書および凡ての民にそそぎて言ふ、〘333㌻〙
20 『これ神の汝らに命じたまふ契󠄅約の血なり』と。
21 また同じく幕屋と祭のすべての器とに血をそそげり。
22 おほよそ律法によれば、萬のもの血をもて潔󠄄めらる、もし血を流すことなくば、赦さるることなし。
23 この故に天に在るものに象りたる物は此等にて潔󠄄められ、天にある物は此等に勝󠄃りたる犧牲をもて潔󠄄めらるべきなり。
24 キリストは眞のものに象れる、手にて造󠄃りたる聖󠄄所󠄃に入らず、眞の天に入りて今より我等のために神の前󠄃にあらはれ給ふ。
25 これ大祭司が年ごとに他の物の血をもて聖󠄄所󠄃に入るごとく、屡次おのれを獻ぐる爲にあらず。
26 もし然らずば世の創より以來しばしば苦難を受け給ふべきなり。然れど今、世の季にいたり、己を犧牲となして罪を除かんために一たび現れたまへり。
27 一たび死ぬることと死にてのち審判󠄄を受くることとの人に定りたる如く、
28 キリストも亦おほくの人の罪を負󠄅はんが爲に一たび献げられ、復罪を負󠄅ふことなく、己を待望󠄇む者に再び現れて救を得させ給ふべし。
458㌻
第10章
1 それ律法は來らんとする善き事の影にして眞の形にあらねば、年每にたえず献ぐる同じ犧牲にて、神にきたる者を何時までも全󠄃うすることを得ざるなり。
2 もし之を得ば、禮拜をなす者、一たび潔󠄄められて復心に罪を憶えねば、献ぐることを止めしならん。
3 然れど犧牲によりて、年ごとに罪を憶ゆるなり。
4 これ牡牛と山羊との血は罪を除くこと能はざるに因る。
5 この故にキリスト世に來るとき言ひ給ふ 『なんぢ犧牲と供物とを欲せず、 唯わが爲に體を備へたまへり。
6 なんぢ燔祭と罪祭とを悅び給はず、
7 その時われ言ふ「神よ、我なんぢの御意󠄃を行はんとて來る」 我につきて書の卷に錄されたるが如し』と。
8 先には『汝いけにへと供物と燔祭と罪祭と(即ち律法に循ひて献ぐる物)を欲せず、また悅ばず』と言ひ、
9 後に『視よ、我なんぢの御意󠄃を行はんとて來る』と言ひ給へり。その後なる者を立てん爲に、その先なる者を除き給ふなり。〘334㌻〙
10 この御意󠄃に適󠄄ひてイエス・キリストの體の一たび献げられしに由りて我らは潔󠄄められたり。
11 すべての祭司は日每に立ちて事へ、いつまでも罪を除くこと能はぬ同じ犧牲をしばしば献ぐ。
12 然れどキリストは罪のために一つの犧牲を献げて、限りなく神の右に坐し、
13 斯て己が仇の己が足臺とせられん時を待ちたまふ。
14 そは潔󠄄めらるる者を一つの供物にて限りなく全󠄃うし給ふなり。
15 聖󠄄靈も亦われらに之を證して
16 『「この日の後、われ彼らと立つる契󠄅約は是なり」と主いひ給ふ。また 「わが律法をその心に置き、その念に銘さん」』と言ひ給ひて、
17 『この後また彼らの罪と不法とを思ひ出でざるべし』と言ひたまふ。
18 斯る赦ある上は、もはや罪のために献物をなす要󠄃なし。
459㌻
19 然れば兄弟よ、我らイエスの血により、
20 その肉體たる幔を經て我らに開き給へる新しき活ける路より憚らずして至聖󠄄所󠄃に入ることを得、
21 かつ神の家を治むる大なる祭司を得たれば、
22 心は濯󠄄がれて良心の咎をさり、身は淸き水にて洗はれ、眞の心と全󠄃き信仰とをもて神に近󠄃づくべし。
23 また約束し給ひし者は忠實なれば、我ら言ひあらはす所󠄃の望󠄇を動かさずして堅く守り、
24 互に相顧󠄃み愛と善き業とを勵まし、
25 集會をやむる或人の習慣の如くせず、互に勸め合ひ、かの日のいよいよ近󠄃づくを見て、ますます斯の如くすべし。
26 我等もし眞理を知る知識をうけたる後、ことさらに罪を犯して止めずば、罪のために犧牲もはや無し。
27 ただ畏れつつ審判󠄄を待つことと、逆󠄃ふ者を焚きつくす烈しき火とのみ遺󠄃るなり。
28 モーセの律法を蔑する者は慈悲を受くることなく、二三人の證人によりて死に至る。
29 まして神の子を蹈みつけ、己が潔󠄄められし契󠄅約の血を潔󠄄からずとなし、恩惠の御靈を侮る者の受くべき罰の重きこと如何許とおもふか。
30 『仇を復すは我に在り、われ之を報いん』と言ひ、また『主その民を審かん』と言ひ給ひし者を我らは知るなり。
31 活ける神の御手に陷るは畏るべきかな。
32 なんぢら御光を受けしのち苦難の大なる戰鬪に耐へし前󠄃の日を思ひ出でよ。
33 或は誹謗と患難とに遭󠄃ひて觀物にせられ、或は斯ることに遭󠄃ふ人の友となれり。〘335㌻〙
34 また囚人となれる者を思ひやり、永く存する尤も勝󠄃れる所󠄃有の己にあるを知りて、我が所󠄃有を奪はるるをも喜びて忍󠄄びたり。
35 されば大なる報を受くべき汝らの確信を投げすつな。
460㌻
36 なんぢら神の御意󠄃を行ひて約束のものを受けん爲に必要󠄃なるは忍󠄄耐なり。
37 『いま暫くせば、 來るべき者きたらん、 遲からじ。
38 我に屬ける義人は、信仰によりて活くべし。 もし退󠄃かば、わが心これを喜ばじ』
39 然れど我らは退󠄃きて滅亡に至る者にあらず、靈魂を得るに至る信仰を保つ者なり。
第11章
1 それ信仰は望󠄇むところを確信し、見ぬ物を眞實とするなり。
2 古への人は之によりて證せられたり。
3 信仰によりて我等は、もろもろの世界の神の言にて造󠄃られ、見ゆる物の顯るる物より成らざるを悟る。
4 信仰に由りてアベルはカインよりも勝󠄃れる犧牲を神に献げ、之によりて正しと證せられたり。神その供物につきて證し給へばなり。彼は死ぬれども、信仰によりて今なほ語る。
5 信仰に由りてエノクは死を見ぬやうに移されたり。神これを移し給ひたれば見出されざりき。その移さるる前󠄃に神に喜ばるることを證せられたり。
6 信仰なくしては神に悅ばるること能はず、そは神に來る者は、神の在すことと神の己を求むる者に報い給ふこととを、必ず信ずべければなり。
7 信仰に由りてノアは、未だ見ざる事につきて御吿を蒙り、畏みてその家の者を救はん爲に方舟を造󠄃り、かつ之によりて世の罪を定め、また信仰に由る義の世嗣となれり。
8 信仰に由りてアブラハムは召されしとき嗣業として受くべき地に出で徃けとの命に遵󠄅ひ、その徃く所󠄃を知らずして出で徃けり。
9 信仰により異國に在るごとく約束の地に寓り、同じ約束を嗣ぐべきイサクとヤコブと共に幕屋に住󠄃めり。
10 これ神の營み造󠄃りたまふ基礎ある都を望󠄇めばなり。
11 信仰に由りてサラも約束したまふ者の忠實なるを思ひし故に、年邁ぎたれど胤をやどす力を受けたり。
461㌻
12 この故に死にたる者のごとき一人より天の星のごとく、また海邊の數へがたき砂のごとく夥多しく生れ出でたり。
13 彼等はみな《[*]》信仰を懷きて死にたり、未だ約束の物を受けざりしが、遙にこれを見て迎󠄃へ、地にては旅人また寓れる者なるを言ひあらはせり。[*或は「信仰に隨ひて」と譯す。]
14 斯く言ふは、己が故郷を求むることを表すなり。〘336㌻〙
15 若しその出でし處を念はば、歸るべき機ありしなるべし。
16 されど彼らの慕ふ所󠄃は天にある更に勝󠄃りたる所󠄃なり。この故に神は彼らの神と稱へらるるを恥とし給はず、そは彼等のために都を備へ給へばなり。
17 信仰に由りてアブラハムは試みられし時イサクを献げたり、彼は約束を喜び受けし者なるに、その獨子を献げたり。
18 彼に對しては『イサクより出づる者なんぢの裔と稱へらるべし』と云ひ給ひしなり。
19 かれ思へらく、神は死人の中より之を甦へらすることを得給ふと、乃ち死より之を受けしが如くなりき。
20 信仰に由りてイサクは來らんとする事につきヤコブとエサウとを祝福せり。
21 信仰に由りてヤコブは死ぬる時ヨセフの子等をおのおの祝福し、その杖の頭によりて禮拜せり。
22 信仰に由りてヨセフは生命の終󠄃らんとする時、イスラエルの子らの出で立つことに就きて語り、又󠄂おのが骨のことを命じたり。
23 信仰に由りて兩親はモーセの生れたる時、その美しき子なるを見て、王の命をも畏れずして三月の間これを匿したり。
24 信仰に由りてモーセは人と成りしときパロの女の子と稱へらるるを否み、
25 罪のはかなき歡樂を受けんよりは、寧ろ神の民とともに苦まんことを善しとし、
462㌻
26 キリストに因る謗はエジプトの財寶にまさる大なる富と思へり、これ報を望󠄇めばなり。
27 信仰に由りて彼は王の憤恚を畏れずしてエジプトを去れり。これ見えざる者を見るがごとく耐ふる事をすればなり。
28 信仰に由りて彼は過󠄃越と血を灑ぐこととを行へり、これ初子を滅す者の彼らに觸れざらん爲なり。
29 信仰に由りてイスラエル人は紅海を乾ける地のごとく渡りしが、エジプト人は然せんと試みて溺れ死にたり。
30 信仰に由りて七日のあひだ迴りたればエリコの石垣は崩󠄃れたり。
31 信仰に由りて遊󠄃女ラハブは平󠄃和をもて間者を接けたれば、不從順の者とともに亡びざりき。
32 この外なにを言ふべきか、ギデオン、バラク、サムソン、エフタ、またダビデ、サムエル及び預言者たちに就きて語らば、時足らざるべし。
33 彼らは信仰によりて國々を服󠄃へ、義をおこなひ、約束のものを得、獅子の口をふさぎ、
34 火の勢力を消󠄃し、劍の刃󠄃をのがれ、弱󠄃よりして强くせられ、戰爭に勇ましくなり、異國人の軍勢を退󠄃かせたり。
35 女は死にたる者の復活を得、ある人は更に勝󠄃りたる復活を得んために、免さるることを願はずして極刑を甘んじたり。
36 その他の者は嘲笑と鞭と、また縲絏と牢獄との試鍊を受け、〘337㌻〙
37 或者は石にて擊たれ、試みられ、鐵鋸にて挽かれ、劍にて殺され、羊・山羊の皮を纒ひて經あるき、乏しくなり、惱まされ、苦しめられ、
38 (世は彼らを置くに堪へず)荒野と山と洞と地の穴󠄄とに徨へり。
39 彼等はみな信仰に由りて證せられたれども約束のものを得ざりき。
40 これ神は我らの爲に勝󠄃りたるものを備へ給ひし故に、彼らも我らと偕ならざれば、全󠄃うせらるる事なきなり。
463㌻
第12章
1 この故に我らは斯く多くの證人に雲のごとく圍まれたれば、凡ての重荷と纒へる罪とを除け、忍󠄄耐をもて我らの前󠄃に置かれたる馳場をはしり、
2 信仰の導󠄃師また之を全󠄃うする者なるイエスを仰ぎ見るべし。彼はその前󠄃に置かれたる歡喜のために、恥をも厭はずして十字架をしのび、遂󠄅に神の御座の右に坐し給へり。
3 なんぢら倦み疲れて心を喪ふこと莫らんために、罪人らの斯く己に逆󠄃ひしことを忍󠄄び給へる者をおもへ。
4 汝らは罪と鬪ひて未だ血を流すまで抵抗しことなし。
5 また子に吿ぐるごとく汝らに吿げ給ひし勸言を忘れたり。曰く 『わが子よ、主の懲戒を輕んずるなかれ、 主に戒めらるるとき倦むなかれ。
6 そは主、その愛する者を懲しめ、 凡てその受け給ふ子を鞭ち給へばなり』と。
7 汝らの忍󠄄ぶは懲戒の爲なり、神は汝らを子のごとく待ひたまふ、誰か父󠄃の懲しめぬ子あらんや。
8 凡ての人の受くる懲戒、もし汝らに無くば、それは私生兒にして眞の子にあらず、
9 また我らの肉體の父󠄃は、我らを懲しめし者なるに尙これを敬へり、况して靈魂の父󠄃に服󠄃ひて生くることを爲ざらんや。
10 そは肉體の父󠄃は暫くの間その心のままに懲しむることを爲しが、靈魂の父󠄃は我らを益するために、その聖󠄄潔󠄄に與らせんとて懲しめ給へばなり。
11 凡ての懲戒、今は喜ばしと見えず、反つて悲しと見ゆ、されど後これに由りて練習する者に、義の平󠄃安なる果を結ばしむ。
12 されば衰へたる手、弱󠄃りたる膝を强くし、
13 足蹇へたる者の《[*]》履み外すことなく、反つて醫されんために汝らの足に直なる途󠄃を備へよ。[*或は「履み挫く」と譯す。]
14 力めて凡ての人と和ぎ、自ら潔󠄄からんことを求めよ。もし潔󠄄からずば、主を見ること能はず。
15 なんぢら愼め、恐らくは神の恩惠に至らぬ者あらん。恐らくは苦き根はえいでて汝らを惱まし、多くの人これに由りて汚されん。〘338㌻〙
464㌻
16 恐らくは淫行のもの、或は一飯のために長子の特權を賣りしエサウの如き妄なるもの起󠄃らん。
17 汝らの知るごとく、彼はそののち祝福を受けんと欲したれども棄てられ、淚を流して之を求めたれど回復の機を得ざりき。
18 汝らの近󠄃づきたるは、火の燃ゆる觸り得べき山・黑雲・黑闇・嵐、
19 ラッパの音󠄃、言の聲にあらず、この聲を聞きし者は此の上に言の加へられざらんことを願へり。
20 これ『獸すら山に觸れなば、石にて擊るべし』と命ぜられしを、彼らは忍󠄄ぶこと能はざりし故なり。
21 その現れしところ極めて怖しかりしかば、モーセは『われ甚く怖れ戰けり』と云へり。
22 されど汝らの近󠄃づきたるはシオンの山、活ける神の都なる天のエルサレム、千萬の御使の集會、
23 天に錄されたる長子どもの敎會、萬民の審判󠄄主なる神、全󠄃うせられたる義人の靈魂、
24 新約の仲保なるイエス、及びアベルの血に勝󠄃りて物言ふ灑の血なり、
25 なんぢら心して語りたまふ者を拒むな、もし地にて示し給ひし時これを拒みし者ども遁るる事なかりしならば、况して天より示し給ふとき、我ら之を退󠄃けて遁るることを得んや。
26 その時、その聲、地を震へり、されど今は誓ひて言ひたまふ『我なほ一たび地のみならず、天をも震はん』と。
27 此の『なほ一度』とは震はれぬ物の存らんために、震はるる物すなはち造󠄃られたる物の取り除かるることを表すなり。
28 この故に我らは震はれぬ國を受けたれば、感謝して恭敬と畏懼とをもて御心にかなふ奉仕を神になすべし。
465㌻
29 我らの神は燒盡す火なればなり。
第13章
1 兄弟の愛を常に保つべし。
2 旅人の接待を忘るな、或人これに由り、知らずして御使を舍したり。
3 己も共に繋がるるごとく囚人を思へ、また己も肉體に在れば、苦しむ者を思へ。
4 凡ての人、婚姻のことを貴べ、また寢床を汚すな。神は淫行のもの、姦淫の者を審き給ふべければなり。
5 金を愛することなく、有てるものを以て足れりとせよ。主みづから『われ更に汝を去らず、汝を捨てじ』と言ひ給ひたればなり。
6 然れば我ら心を强くして斯く言はん 『主わが助主なり、我おそれじ。 人われに何を爲さん』と。〘339㌻〙
7 神の言を汝らに語りて汝らを導󠄃きし者どもを思へ、その行狀の終󠄃を見てその信仰に效へ。
8 イエス・キリストは昨日も今日も永遠󠄄までも變り給ふことなし。
9 各樣の異なる敎のために惑さるな。飮食󠄃によらず、恩惠によりて心を堅うするは善し、飮食󠄃によりて步みたる者は益を得ざりき。
10 我らに祭壇あり、幕屋に事ふる者は之より食󠄃する權を有たず。
11 大祭司、罪のために活物の血を携へて至聖󠄄所󠄃に入り、その活物の體は陣營の外にて燒かるるなり。
12 この故にイエスも己が血をもて民を潔󠄄めんが爲に、門の外にて苦難を受け給へり。
13 されば我らは彼の恥を負󠄅ひ、陣營より出でてその御許に徃くべし。
14 われら此處には永遠󠄄の都なくして、ただ來らんとする者を求むればなり。
15 此の故に我らイエスによりて常に讃美の供物を神に献ぐべし、乃ちその御名を頌むる口唇の果なり。
16 かつ仁慈と施濟とを忘るな、神は斯のごとき供物を喜びたまふ。
17 汝らを導󠄃く者に順ひ之に服󠄃せよ、彼らは己が事を神に陳ぶべき者なれば、汝らの靈魂のために目を覺しをるなり。彼らを歎かせず、喜びて斯く爲さしめよ、然らずば汝らに益なかるべし。
466㌻
18 我らの爲に祈れ、我らは善き良心ありて凡てのこと正しく行はんと欲するを信ずるなり。
19 われ速󠄃かに汝らに歸ることを得んために、汝らの祈らんことを殊に求む。
20 願はくは永遠󠄄の契󠄅約の血によりて、羊の大牧者となれる我らの主イエスを、死人の中より引上げ給ひし平󠄃和の神、
21 その悅びたまふ所󠄃を、イエス・キリストに由りて我らの衷に行ひ、御意󠄃を行はしめん爲に、凡ての善き事につきて汝らを全󠄃うし給はんことを。世々限りなく榮光かれに在れ、アァメン。
22 兄弟よ、請󠄃ふ我が勸の言を容れよ、我なんぢらに手短く書き贈りたるなり。
23 なんぢら知れ、我らの兄弟テモテは釋されたり。彼もし速󠄃かに來らば、我かれと偕に汝らを見ん。
24 汝らの凡ての導󠄃く者、および凡ての聖󠄄徒に安否を問へ。イタリヤの人々、なんぢらに安否を問ふ。
25 願くは恩惠なんぢら衆と偕に在らんことを。〘340㌻〙
467㌻